研究医の業務

研究医は医師免許を取得後、

病院ではなく、研究室内で、

未来の医学の発展のために、日々研究することを選んだお医者さんです。

「医師の仕事」の根底にある価値観は、患者さんへの奉仕です。

そのもっとも基本的な形は、臨床現場において直接患者さんに接して、

患者さんを癒すというものです。

しかし、患者さんが癒されるには、

患者さんが自己治癒できる

医師が患者さんに寄り添うことが出来る

患者さんが抱える疾患の治癒法が確立している

という3ステップがすべて満たされる必要があります。

僕は医学生になりたてなので、実際に経験はしていませんが

医療現場(厳しい状況の患者さんが多い大学病院では特に)に出てみると

医学の限界に直面して、患者さんを治せない事に、悔しさを感じる医師は多いとききます。

僕が入学した大阪大学医学部では、基礎医学の教授のうち、

半数近くは臨床を一度経験された先生方であり、

みな異口同音に、そのようにおっしゃっていました。

医学には、大きく分けて3つの分野があります。

基礎医学: 生命現象を解明し、もって新規治療法を示唆したり医薬品を開発したりする

社会医学: 医学と社会の相互作用に着目し、両者の相関を知る。もって、医学と社会の双方に、人々の健康な暮らしに結びつく提言を行っていく。

臨床医学: 生命現象にもとづいた新規治療法を開発し、現場で治験を行い、実証する。臨床医の技術向上も広義の臨床医学。

医師免許を取得して、これら医学を推し進める研究者を、研究医といいます。

ですから、医学部の教員のうち、医師免許を持って教育研究にあたる人は、全員研究医です。

実際のところ、医師免許を取得している必要があるのは、臨床医学の研究医だけです。

ですが、基礎医学研究者も社会医学研究者も、医師からなるのが望ましいという考えが(少なくとも医学部出身の研究者からは)根強いです。

これには一定の合理性があると思います。

医学部の教育は、いってしまえば医師として最低限知っておくべき(しかし大量の)学識と経験を体得する教育です。

これは単に生命科学の勉強にとどまらず、人間の生命現象を個体レベル・全身レベルで理解するというものです。

医学部以外の生命科学系の学部(理学・農学・工学)出身の研究者でそのような教育を受けてきた人はいないでしょう。

たとえ研究手法が生命科学的・社会科学的であったとしても、

医学の発展に結びつく研究を行うには、やはり医学を学んだ人材が適しているという考えは合理的であると思います。

なお、近年、研究医(とくに基礎医学研究者)を志す医学生が減ってきているそうです。

2000年までは、医学科100名中、4~5名は基礎医学系の進路を選択していたそうですが、

近年は100名中1人いればよい方だそうです。

(臨床医と比べて競争が激しく、生活基盤も臨床医ほどではないので、そもそも志望する学生が減って来ています)

(従来、生活の基盤を支えていたアルバイトですが、アルバイトに必要な初期臨床研修が、2004年以降必修化されてからはこの傾向が顕著であるそうです。研修中に研究への意欲と情熱が失われてしまうのでしょうか)

(医師以外の職業を経験した僕からすれば、それでも生活の基盤はかなり整っている方なのですが、、、)

しかし、ノーベル医学・生理学賞の日本人受賞者が増えてきていることからもわかるように、

日本の基礎医学研究は世界をリードしてきていました。

ノーベル賞は過去の研究業績に対する評価を行うものですから、

現在の日本の基礎医学研究は収穫期にあるといってもよいのかもしれません。

いまは収穫期の段階なので分かりにくいですが、

今後基礎医学研究者が減っていくことは、研究者の層が薄くなることと同じであり、

層の薄弱化は質の低下を意味しますので、

このままでは日本の基礎医学研究の衰退を招くのではないかと、関係者間では危惧されています。

そこで、東大京大阪大など研究志向の大学では、

MD研究者育成プログラムなどで基礎医学研究者を志望する医学生をサポートする体制が

整備されています。

現在の医学生が、そもそも医学部を志望したときに抱いていたイメージは「お医者さん」という仕事だと思いますが、

在学中に研究の楽しさ・貢献の仕方

しっかりと伝わるような医学教育体制を整備することが大切だと思います。

結局、基礎医学研究者が生み出した成果からしか、医学は進歩しないのですから。


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